コラム

なぜファンは遠征してまでその土地のアイドルを観に行くのか?―ひめキュン運動会現地レポ前編

2014年05月19日 20時00分

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 ご当地アイドルだからといって、そのアイドルを活動拠点だけでしか観られない、というケースは少ない。ある程度の知名度を持ったアイドルなら、東京はもちろん大都市圏でのライブを定期的に行なっている。

 愛媛県松山市を活動拠点とする5人組のアイドルグループ「ひめキュンフルーツ缶」も例外ではない。ご当地アイドルとして屈指の人気と実力を兼ね備える彼女たち。東京では、毎月のように定期公演を行なっているため、都内にいながらガッツリライブを観ることができるし、対バンやリリースイベントなども頻繁にある。大阪や名古屋でも定期公演が始まり、ツアーでは、北は北海道、南は沖縄まで全国18ヵ所(19公演)をまわっている。ひめキュンフルーツ缶を観るために、必ずしも松山に行かなければいけない理由はない。

 しかし、ファンはひめキュンのライブやイベントがあれば、時に平日でさえも、松山に訪れる。なぜか? その理由が分かりやすく明示されたのが、5月4日に行なわれたライブ・ひめキュンフルーツ缶定期公演「春の大運動会」だったのではないか。
 

ひめキュンフルーツ缶定期公演「春の大運動会」

 この「春の大運動会」。「運動会」と入ってるからといって、ライブの演目の中にちょっとギミックとして運動会っぽい催し物が混じっているだけだろう。……この考えは甘かった。

 入場時、受付で赤、青、緑、黄、ピンクのハチマキをどれかひとつ手渡され、強制的に頭に巻くことに。このハチマキを巻いた時点で、ファンは、自身がライブを観に来た観客ではなく、運動会の選手の一員である、という今日の立場をすんなり理解し、受け入れてしまう。

 会場内に入ると、ハチマキの色ごとに整列させられ、ジャージを着たひめキュンメンバーが入り口から行進して入場。メンバーの奥村真友里が自身のことを「ニート一年生!」と選手宣誓を行ない(奥村は今春高校を卒業し、ひめキュン初の専業アイドルとなった)、国旗(実際はひめキュンのフラッグ)掲揚と国家斉唱で「君が代」を歌わされ、校長先生(事務所社長の伊賀千晃氏)のお話……とまさに運動会の体裁でイベントが進んでいく。なんだこれ?

 さらに選手(ファン)一同でラジオ体操。大の大人が揃いも揃って、真面目に体操するハメになろうとは! ちなみに、メンバーの河野穂乃花だけは、ラジオ体操を知らない様子で、周囲を見ながら体をそれっぽく動かしていたという。一体、日本国民として人生19年間どうやればラジオ体操を覚えずに生きてこられるのだろう?

 中高生の頃は真面目にするなんて恥ずかしくて、いかにダラダラやるかを追求していたであろうラジオ体操を、いい大人になった今、しっかりと踊らされたこの時点で、選手という名のファンは完全に子ども時代にタイプスリップ。「運動会」に全力をつくす小学生に戻ってしまったのである。
 

ひめキュン「春の大運動会」にて国旗(ひめキュンのフラッグ)を掲揚

選手と一同でラジオ体操! 河野穂乃花(左端、桃色)だけ動きに自信がないのがわかる

 この運動会は、ひめキュンの岡本真依が団長の赤組、谷尾桜子が団長の青組、菊原結里亜が団長の緑組、奥村真友里が団長の黄組、河野穂乃花が団長の桃組に分かれ、6つの種目を競い優勝を争うという内容。選手のハチマキには番号が書いてあり、その番号によって出場種目が決められる。ちなみに各チームの団長であるひめキュンメンバーは全種目に出場する。

 第1種目はスプーンピンポン。スプーンにピンポンを載せて、トラックを走る競技というアレである。1位になった選手には、用意されたひめキュンTシャツの山の中から好きなモノを持っていってよい、という景品付きだから、選手の本気度も俄然高まってくる。
 

スプーンにピンポンを載せてトラックを走るアレに真剣に取り組むひめキュン

 1種目が終わると、伊賀社……伊賀校長の笛がピーッと鳴り響き、ライブの開始が告知される。すると選手兼ファンがステージ前に猛ダッシュ。ひめキュンが『恋愛エネルギー保存の法則』、『恋のプリズン』という初期の2曲を披露すると、すぐさま第2種目へ。どうやら1種目が終わるごとに2曲ライブが行なわれるというプログラムのよう。

 第2種目の綱引きは見るからにビッグサイズの選手が揃った青組が、見た目通りに圧倒的な強さを見せ、桃組に勝利。続いて決勝戦でも、体格差にチームワークで対抗した黄組が健闘を見せるも、やはり地力の差はいかんともしがたく、青組が優勝をもぎ取った。そして再びライブへ。オリコン週間12位を獲得した最新シングルの『ハルカナタ』に、盛り上がること間違いナシのジャンプ曲『ストロベリーKISS』。2曲が終わると再び種目へ。
 

「春の大運動会」第2種目の綱引き

緑組の団長を務めた菊原結里亜

奥村真友里が団長を務める黄組も健闘

 第3種目は、障害物競走。バットにおでこをつけ10回転し、網をくぐり、タライの中の小麦粉に顔を突っ込んでマシュマロを探して咥え、最後に椅子の上の風船をお尻で割って、ゴールを目指す、という全種目の中でも屈指のガチ競技。

 この障害物競走では、河野団長が最初のバットで7回転しか回ってない疑惑や、風船を割った奥村団長の上に、タッチの差で同じ椅子を目指していた岡本団長が乗ってしまうアクシデントが発生。あまりのおかしさに動揺して動けない奥村団長を尻目に、岡本団長は別の椅子の風船を割り、逆転ゴールしてしまう。岡本団長の行動が偶然だったのか意図的なものだったかは知る術もないが、メンバーいち負けず嫌いの岡本団長だけに、勝負に徹するための行動だったとしたら、恐るべしである。顔が白い小麦粉まみれとなったひめキュンメンバーが『メイプルーフ』、『春風メモリーズ』を歌うと休憩タイムへ。
 

チーム色のメガネを着用するメンバーたち、可愛い!

芸能人運動会では定番の、小麦粉に顔を突っ込んでマシュマロを探す例のアレ

 今回の運動会のチケットはドリンク付ならぬ「弁当付」。ここで弁当が配られ、各自思い思いの場所で昼食を取る。メンバーもステージ上でファンと同じ弁当を食す。こういう時、メンバーに話しかけようとするファンが誰もおらず、あくまでオンとオフの切り替えをファン皆が当然のように行なっているのが面白いところ。

 休憩中もイベントは盛り沢山。食事が終わったメンバーがアイスクリームと、手作りお菓子を販売する。全部買いしても1700円というお手頃価格! 普段のライブにおいて、女子力など全く垣間見ることができないひめキュンだが、そのお菓子の味は……意外と無難! 普段料理をするようにはとても見えない菊原団長のカップケーキと、好き嫌いが多い河野団長の手作りお菓子に加え、岡本団長のホットケーキ、奥村団長のクッキー、谷尾団長のソフトクッキーと、ファンにとっては滅多にお目にかかれないメンバーのお手製御菓子が食べられる非常に貴重な一時だったであろう。
 

弁当にパクつくメンバーたち

手作りお菓子が売れて大喜びの岡本真依(赤)

 さらに、休憩中、ダサいジャージコンテストが開催される。思い思いのダサいジャージを着た選手たちがエントリー。そのダサさを競い合った。

 午後、最初の種目は玉入れ。メンバーがカゴを頭の上に乗せ、選手たちがその中に玉を放り込んでいくのだが、この種目においては不正が横行。特に酷かったのが河野団長率いる桃組。河野団長は、足を大きく広げ、姿勢をできる限り低くし、できる限りカゴを低くしたポジショニング。桃組選手は、そのカゴの中に、玉を投げるのではなく、掴み抱えた玉をそのままダンク状態で入れていくという掟破りの手法で、カゴの中をどんどん満たしていく。

 他チームも途中からそれを見習い、どんどん無法競技と化していった。しかし、その中で、奥村団長だけは、周囲に気付いてないのか相変わらずヌボーっとただカゴを頭に乗せて突っ立って……いやルールを厳格に守り、黄組の選手もバカ正直に……いやルールを厳格に守り玉を投げ入れていく。結果、桃組の圧勝、黄組の最下位に終わったが、奥村団長と黄組の、他に染まらない美しいスポーツマンシップと、それとは対照的に河野団長と桃組の、勝利至上主義の卑怯な戦い方が浮き彫りとなった競技だった。果たして、このまま「勝者が正義」という競争社会の論理が、この運動会でもまかり通ってしまうのだろうか?
 

絵にかいたような無法地帯と化した玉入れ競争

玉入れ競争の結果をみんなで声をそろえてカウント

 競技後、『未完成のスイーツ』、『ミスターA』の2曲を披露し、種目は長縄飛びに。各チーム5人+団長の計6人が飛び、長縄が引っかかるまでの回数を競う。ここでの優勝は谷尾団長率いる青組。各団長は縄の先頭という一番飛びづらいポジションを指定されての参加となったが、引っかかる者は誰もおらず。さすが「アスリートアイドル」の別名を持つひめキュンである。

 再びライブ。この辺りになってくると、競技が終わったらライブということを選手の体が記憶。競技が終わるやいなや、伊賀校長の笛が鳴る前に、待機した選手がステージへ走りだすようになる。運動会の競技で一旦ついた競争心の火は消えることなく、最前の奪い合いが繰り広げられるように! とはいえ、殺伐としたものではなく、フリーダムかつアットホームな現場ならではの、じゃれ合いとしての奪い合いではあるのだが。

 そして、そんなタイミングでの『Seize the days!』。ひめキュンのモッシュ曲としてお馴染みの1曲だが、運動会会場として用意された広めのスペースならではの、普段より大きなモッシュピットが自然と作られ、激しいモッシュが展開される。そして文字通りキラーチューンの『キラーチューン』。熱狂したファンの絶叫とともに繰り広げられる圧巻のパフォーマンスでボルテージは最高潮に!

 と、なったところでまたも種目に。盛り上がった、と思ったところで、競技に移行してしまうのが、この日のイベントの面白いところ。本来、流れを断ち切ってしまうのはマイナスにしかなりえないはずだが、ここでは、そのことにより、熱さとゆるさが同居する不思議な空間を形成していた。

後編に続く

■ひめキュンフルーツ缶公式サイト
http://himekyun.jp/
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