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UPDATE|2014/09/03

いずこねこ、@JAM EXPOでソロアイドルの矜恃を見せた

8月31日開催されたアイドルの祭典「@JAM EXPO」。盛況のうちに終えたこの日、一つの物語が終わりを告げた。

ーーいずこねこ。

〝猫系小動物ネオ・アイドル〟というコンセプトを掲げ、2011年から本格的に活動を開始した茉里によるソロユニット。プロデューサーのサクライケンタ氏による端正かつ複雑な楽曲、どこか仄暗い世界感、茉里の人懐っこい愛らしさが各方面で話題を呼び、ライヴアイドルシーンにおいて確固たる存在を築いていき、やがてネクストブレイク候補の呼び声も上るようにもなった。そんな矢先のことだった。今年3月サクライ氏の口から活動休止という言葉が発せられ、そのまま5月21日に@JAM  EXPOを持ってプロジェクトを正式に終えるというアナウンスが告げられることに。

 8月31日、最後の日。彼女への手向けの花となるブルーベリーステージには多くの飼い主(ファンの総称)が集まった。最後の猫工場の幕が上がる。まるでウェディングドレスのような純白の衣装とベールを模したネコ耳ヘアバンドを纏った茉里が登場。まさしく晴れ姿。さながら飼い主は娘の旅立ちを見守る親と言ったところか。

『rainy irony』。「大好き!」という言葉に思わずしてか力がこもる茉里。続く『END』。飼い主たちも熱が入る。手書きで口上が書かれたこのボードを掲げる飼い主。そこに飼い主たちが集まり声にならない声を張り上げていたのを思い出す。もう、この瞬間も最後なのかと思うと一層の熱が入る。曲終わり「今まで1人で頑張って 挫けそうになったけど ここまでこれたの飼い主の愛のおかげだにゃーにゃーにゃー!」という茉里による口上は、メッセージにも聞こえ、嬉しさと共に寂しさも加速させる。

『white clock』。2番の歌い始め、いつもならばしっかりとした振りがあるものの、この時ばかりはフロアを笑顔で見据える茉里。この景色を一秒でも多く観ていたいという信条の表れのように映る。

 最後のMC「ソロとしての活動はこれで終わりです!」と勢いよく笑顔で語る。きっと彼女としては何かの反応があるだろうと思っての発言だったはず。しかし、水を打ったように会場は静まり返る。俯き気味の飼い主たち。対照的に茉里は「さぁ、行くよ!」と促す。意を決したのか、飼い主たちも、拳を高々と突き上げる。

 ラスト、『nostalgie el』、「こんなにニャンニャン言うタイミング、もうないよ!」と語る彼女。この言葉に触発されたのかブレイクでそこら中から「ニャンニャン」の大合唱。もちろん全員が笑顔。悲しみよりも、今まで彼女が作り上げてきたライヴの楽しさの集大成が最後の舞台を彩っていく。最高の光景だ。

 気がつけば彼女の姿を観に駆けつけた、絆~KIZUNA~のメンバーが涙を浮かべ眺めていた。

 終演後、鳴りやまない拍手と歓声。この光景には先ほど、自らの終わりを笑い飛ばした茉里も感極まって声を詰まらせる。涙。それでも気丈に彼女は「こんなに多くの人が集まってくれて本当に嬉しいです! ありがとう!!」と感謝を述べた。言葉数は少ない、だからこそより一層胸に刺さる。拍手は止まらない、後ろ髪引かれるように彼女はなんどもフロアを向けては手を振り続けた。

 追い出し用のBGMが流れても誰も立ち去らない。飼い主は最後のニャンコールを飛ばす。その想いに応え、茉里は駆け足で登場した。歌は披露することはなかった。しかし、その代わりにと、まっさらな思いの限りを打ち明ける。

「本当にソロアイドルをやってきて苦労してきました。でも、ソロアイドルだったからこそ多くの人に観てもらえるという実感の幸せを得られる。それはすっごく嬉しいことなんです。これからソロアイドルの子が、たくさんデビューしたり、外に出てくると思うんです。だからみんなに頑張ってほしい!」と、今もなお活動するソロアイドル仲間、そしてこれからソロで活動するアイドルへ向けてのエールを送る。

「ここで経験したことをもとにして、私はプラニメで頑張っていきます。いずこねこ、という活動は終わってしまいますけど、私という存在はずっと活動を続けていきますので、また見に来てもらえたら嬉しいです。いずこねこというアイドルが去ったという伝説を残せたらだし、CD、DVDはまだまだ残ってますので(笑)」と最後の最後に笑いに変えつつも「ありがとうございました!」と深々と頭を下げる彼女に、ソロアイドルの矜恃を見た。

 まだ年内に主演映画『世界の終りのいずこねこ』公開が控えている。茉里はプラニメ、そしてミズタマリとしての物語を紡いでいく。一つの物語が終わりを迎えても、まだ伝説は終わらない。猫には九生があるのだから。

 
田口 俊輔:アイドル、映画、音楽などについて書きたい系フリーライター/編集。アイドル関係では『Top Yell』『日経エンタテインメント』『アイドル最前線』『アイドル楽曲ディスクガイド』など

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